総合理工学専攻
博士課程後期課程 1年次生 吉田 泰之さん 和歌山/県立耐久高校出身
Q.未来の医療を変えるかもしれない材料の研究に取り組んでいらっしゃるそうですね。
生分解性インジェクタブルポリマーという新材料は、室温では液状ですが、人間の体温まで温めるとゲル化(固化)する特性をもっています。私が取り組んだのはこのポリマーをパウダー状にし、水への溶解時間を短縮することでした。このポリマーはもともと水飴状で、これを水に溶かすのに数日かかっていたのですが、パウダー化することでそれを約30秒に短縮することができました。例えば、がん治療のために、抗がん剤とポリマー水溶液を混ぜて患部に注入することで、身体的な負担を軽減しつつ副作用を抑えることや、細胞を混ぜて体内に注入することで再生医療への応用も期待できます。このように、このポリマーはこれからの医療を変える多くの可能性を秘めており、水に溶かす時間を短縮化できたことで、臨床現場での実用化に大いに近づいたと言えます。
Q.水飴状のものをパウダー化して水への溶解時間を短縮するという研究は、かなり難易度が高かったのではないですか?
思うように進まなかったですね。水飴状のものを粉末にすることと、ゲル化すること、早く溶解することの3つを同時に達成するのに突破口がなかなか見つかりませんでした。ほぼ半年間、トライ&エラーを繰り返す毎日。今思えば、「完全に溶かさないとゲルにはならない」という思い込みが壁になっていたのだと思います。でもある時、「ココアのように完全に溶けない粉末もある」ということにふっと気がついたんです。完全に溶けなくてもゲルになるんじゃないか、その糸口を見つけてからは、この研究の実現が一気に加速しました。
Q.半年間も辛い状況が続く中で、やり遂げられたのはどうしてでしょう?
正直、逃げ出したい気持ちにもなりました。実は4年次生の時に取り組んでいた研究が上手くいかなくて、先生から当時行っていた研究について「止めた方がよいのではないか」と言われたことがあったのです。当時私は、その研究が上手くいかなかった分、大学院生になって出会ったこのポリマーの研究を、何としても成功させたいという思いがありました。だから、最後まで諦めずに頑張れたのだと思います。
Q.研究中は何か先生からのアドバイスはあったのでしょうか?
先生は私たち学生の意見を尊重してくださる方で、常に自分で考え抜くように指導されてきました。上手くいかないときもさまざまな視点で考察することができ、自分なりに試行錯誤したことで、達成感もひとしおでした。
Q.そのやり抜く強さによって、未来の医療が 変わろうとしています。今のお気持ちは?
まだクリアすべき課題はたくさんあります。現在は製薬メーカーや医療材料メーカーなどの会社と一緒に実験に取り組んでいるところで、医師にも意見を聞きながら、より医療現場のニーズに即したものへと進化させていかなければなりません。新たな治療法を担っているという責任感を忘れず、5年以内の臨床治験、10年以内の実用化を目標にこの研究に取り組んでいきます。
研究の詳細は次のサイトをご覧ください。
▶ 関西大学の研究力